2017年5月10日水曜日

1829年版と1832年版の違いについて

The Court and Camp of Buonaparteは、サー・ウォルター・スコットの『ナポレオン伝』(The Life of Napoleon Buonaparte:1827年 刊)の付録として出版された。知りうる限り、1829年刊の初版と1832年刊の改訂版が世に出ている。

 初版と改訂版の違いだが、「ボナパルト一族」「シャルル・ボナパルト」「レティツィア・ボナパルト」「フェッシュ枢機卿」の章が追加された他、何人かの人物の章に大幅な追記が行われている。

上記のようなボリュームの差以外にも、前者と後者の間で、内容面、特に人物評価が大きく異なっている章もあり、その例として「コーランクール」を両方とも紹介した。概して初版の方は、とりわけナポレオン政権の中枢にあった人物に対しては容赦なく筆誅を加える傾向にある。敵国人であったイギリス人の筆によると思えば、厳しい評価は自然と見なしうるが、改訂版の方ではその描写も幾分マイルドになっている。

改訂版の前書きによると、初版が多く取材していたブーリエンヌ(ナポレオンの元秘書。後にブルボンに帰順)の著作が、ナポレオンに近侍していた面々から批判を受けたとあり、おそらく改訂版ではこうした批判派の意見を盛り込んだものと思われる。

コーランクールだが、ロシア遠征に反対する等ナポレオンの政策の軌道修正を図りつつも、没落時には最後まで忠実に仕え、ボナパルト朝の存続に尽力したという一般的な評価を持たれている。この多くは本人の回顧録に由来し、改訂版もおそらくこれに取材したと思われる。

また推測だが、改訂版が世に出された七月王政期は第一帝政期を懐古する気運が高まった頃なので、そのような世相が文体に影響を与えた可能性も考えられる。

初版と改訂版を比較して、読み物として洗練されてるのはおそらく後者であろうが、本ブログでは古態となる初版を紹介していきたい。以降掲載される訳文も、特記なき限りは初版を元にしている旨ご了承頂きたい。

 (追記)
・コーランクールの章で言及される、彼のフランス滞在許可を獲得してくれた「強力な友人」とは言わずもがなだがアレクサンドル一世のこと。
・また、往々にして初版の方は、さほど重要でもない小咄で話を締める傾向にある。

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