「陛下へ、ナヴァールにて。
ヨーロッパ中の国々、フランス中の町、軍の全連隊から沢山の祝福を受けていることでしょう。その中でこの女のか細い声が埋もれずに届いているでしょうか? あなたの悲しみを慰め、 心の痛みを和らげてくれた女が、貴方に待ち望んだ幸福が訪れたことを喜んでいる、その言葉に 耳を傾ける余裕はありますか?
もう妻ではない私が、貴方が父親になったことに喜ぶとお思いでしょうか? もちろんです、 陛下! 私の心はあなたの心に常に寄り添っています。貴方の心がそうであるのと同様に。私がこの慶事にどんなに感動しているか、貴方はすぐに分かってくれると思っています。私達は離れていても、今回の件について共感で結ばれているのです。
ローマ王の誕生を他でもない貴方から伝えられた事に嬉しく感じてます。しかし、貴方の配慮がまずは各国外交使節たち、貴方の家族、そして何よりも、貴方の最も大切な希望を実現したばかりの幸せなお姫様に向けられていることは、よく承知しています。彼女は私以上にあなたに愛情を注ぐことはできないでしょうが、フランスの国益を保証することであなたの幸せのためにより寄与する事ができたのですから、彼女が誰よりも先に貴方の心遣いを得るのは当然でしょう。糟糠の妻の私は、マリア・ルイーザが独り占めしている貴方の愛情のほんの僅かばかりを主張する権利しかありません。私に返信するよりも、ベッドの彼女を見守り、皇子を抱き上げたりで忙しい事でしょう。待ってるわ!
それでも、この地上の誰よりも、私はあなたの喜びを分かち合っていると伝えずにいられません。万民の安寧のために自らを犠牲として、それが実現できた事に喜び、ただ一人苦しんでいると伝えたら、貴方は私の誠意を疑わないでしょう。苦しんでいるですって。いいえ、私の唯一の心残りは、貴方が私にとってどれほど親愛なる存在であったかを証明するにまだ十分なことをしていないことです。」
マルメゾンの温室 |
「私の可哀想なエル=シド!私のアキレス!」この頻繁に聞かれた嘆きの言葉は、彼女のナポレオンへの愛情と賞賛を物語っていた。その頃から彼女の健康は衰えていき、彼女はのエルバ島に追放されたボナパルトを慰めることができないことを嘆き続けた。
事実、彼女の心は粉々になっていたが、それでも説得されて大事な訪問客に応対をした。その中にはロシアとプロイセンの君主がいて、彼らは彼女に細心の注意を払い、彼女の苦悩を深く慰めてくれた。ある日、重度の体調不良にもかかわらず、彼女は医師の助言に反して、ロシア皇帝を出迎えるために身を起こしたが、彼女はすぐに退出せざるを得なくなった。アレクサンドル帝は自身の侍医を遣わしたが、心因性の病気には手を施しようがなかった。 彼女の容態は絶望的だった。彼女は3日後の1814年5月29日に「エルバ島、ナポレオン」との言葉を残して息を引き取った。
ロシア皇帝アレクサンドル1世を 応対するジョゼフィーヌ |
「陛下へ、マルメゾンにて。
私たちの離婚に伴う悲しみの全容を今日に至って理解できるようになりました。今の私はただの友人として、、貴方の途方もない苦境に対してただ 嘆くことしかできません。貴方は私の同情を感じてくれるでしょう。この同情は貴方が王座を失ったから事に対してではありません。その喪失への埋め合わせはすぐにできると 私は経験から知っています。栄光を共にした戦友との別れの苦悩を哀れんでいるのです。将校だけでなく、一般の兵士たちの顔、名前、戦果を思い出せるはずです。その数が多すぎたため、全員に報いることが出来なかったと貴方は言ってました。苦労を共にした主君から引き離された兵士たちを置き去りにするのは心痛に違いありません。私は 痛切に感じています
かつて頼りにしていた仲間の裏切りと離脱はさぞかし辛いでしょう。ああ 陛下、なぜ私はあなたの元へ飛んでいけないのでしょう? そうすれば、追放生活は卑しい者だけにとって恐ろしく、誠の愛情は消え去っておらず、逆境は新たな力を与えてくれると証明してみせます。私に課せられた義務を果たさねばならないと確信できれば、何も私をここに留めることはできません。
私にとって 唯一の幸福がもたらされるところへ向かいます。それは孤立して不幸な陛下を慰められるところです!ただ一言だけください。それさえあれば、私は飛んでゆきます。
さようなら 陛下。これ以上の言葉はもはや不要でしょう。 私の決意は言葉ではなく行動によって証明されるべきものです。貴方の許可、それだけが欲しいのです。 ジョゼフィーヌ。」
ジョゼフィーヌの石棺 (聖ピエール・聖ポール教会、 リュエイ=マルメゾン) |
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